京都日記 第1日
第106回 全日本剣道演武大会
京都日記 4月30日(金)
本日は仕事で生徒たちをH大学まで引率して遠足に行ってきた。 いつもお世話になる剣道部がある大学である。 往復12qの道のりが,私の足腰にどのような影響を及ぼすか心配したのだが,どうやら何ともなかったようである。 というわけで今から京都大会に向けて出発することにした。
京都大会で最初からずっとお世話になっている大阪のT(別にイニシャルでなくてもいいのだが)先生が,5月3日に初めての立ち会いをされる。
今回は私が万感の思いを込めて撮影させていただく。
それから明日は憲ちゃん先輩の八段審査である。 こちらは勉強のためにしっかりとビデオに収めるつもりでいる。
3日は憲ちゃん先輩,mini98さんと共に,恒例の春霜会京都分科会in御殿荘である。
なんだか気持ちが高ぶって上手く表現できないが,とにかく待ってろよ京都!!!
・・・
いや,待っててね武徳殿。
京都日記 第2日
京都日記 5月1日(土)
八段審査(1日目)見学のため京都市体育館へ。
自家用車で8時前には到着し,そのまま地下の駐車場へ入れる。 20分100円で,1日最大2000円なり。 これが高いのか安いのかよく分からないが,とりあえずは兎にも角にも預けることにする。
憲ちゃん先輩は今回が2度目の挑戦,第1会場の第2組。 間もなく始まり,ビデオカメラに収録する。 終了後,憲ちゃんは観覧席の上のほうでプレジデント範師より指導を受ける。 審査は打つことも大切だけれども,ただそれだけでなく前が大事なようである。 「打ちたい,打ちたい」を消すことが大事なようである。 しかし指導されつプレジデント範師のお姿は,まるで剣道の伝道師のようである。
以前岡村先生が勝浦の研修会で,八段の2つのタイプを話された。 剣道を高める八段と剣道を広める八段。 プレジデント範師は,そのどちらのタイプにも当てはまる稀有な存在であり,直接指導頂ける私たちは何と幸せなことだろう。 範師は求める者に対しては分け隔てなく惜しみない指導をして下さる。 まさに剣道の伝道師である。
広島からは4名の先生方が二次審査に進む。 どの方にも八段になっていただきたい。 それぞれ過去に春霜会掲示板に登場された方々で,応援にも一段と熱が入る。 とりわけH多先生は,私に勝浦研修会を勧めてくださり,その後も折に触れていろいろとアドバイスしていただいている。 撮影中ビデオの液晶画面を見ながらH多先生の合格の確率はかなり高いと見たが,広島からの合格はなし。 残念。
すべてが終了し,二次審査を一緒に見学した憲ちゃん先輩を京都駅まで送って本日の予定はすべて終了。
明日も二日目を見に行きたいと思う。
京都日記 第3日
京都日記 5月2日(日)
昨日に引き続いて京都市体育館へ。 本日も地下駐車場に車を止める。
八段審査2日目は,京都大会の素晴らしさを右も左もわからない私に教えてくださったO塚先生の立ち合いがある。 まずはビデオを撮るための席を確保することにする。
昨日は第1会場上のスタンド席に座ることができたが,本日は立ち入り禁止となっていた。 午後からの2次審査を考えてのことだろう。 その第1会場では,県警U先生の立ち合いが始まっておりあわてて録画する。
さて,いよいよO塚先生の立ち合い。 O塚先生の師匠である警視庁のN先生に電話を入れ,おおよその開始時間をお伝えする。 N先生は京都に向かう新幹線の中におられることがわかり,先生の席も確保。 O塚先生の立ち合いは12時前から始まり,1組前になってやっとN先生ご到着。 会場から電話をされたN先生に向けて「こっちですよ」と手を振り,迎え入れる。 O塚先生の1次審査が始まり,2回分をビデオ撮影する。
その後N先生から色々なお話を聞く。 先ず仰ったことは,実技審査における立合係の重要性。 きりっと締まった実技審査のためには,「はじめ」の第一声が大事であり,東京では若手八段の先生方により行われているとのこと。 それから実技審査に臨む心構えについて伺う。 私からは実技審査における返し胴の有効性についてお尋ねし,納得できるお答えをいただきました。 もちろん尾張八段戦でのプレジデント範師との対戦についてもお聞きしました。
それからアッと驚くことが一つ。 私が以前勤務していた学校で指導した生徒が,N先生が師範を務められる大学の剣道部に在籍していることが分かる。 先生から「いろいろなつながりがあるものだね」と言っていただく。
昼前になり,高校時代の同級生T君を車に乗せ,本日から2泊する御殿荘へ向けて出発する。 連休中のためひどい渋滞の中を進むが,車中ではT君との話が弾む。 高校教員のT君は全国高体連剣道部の仕事をしている。 今日も夕方から会議があり,資料づくりのため早めの宿入りとなったようである。 何かと話題のつばぜり合いのルールについては,全国レベルの試合では概ね混乱なく定着しているとのことであるが,高体連が審判をしない試合について若干の課題が残っているとのこと。 話を聞くと,なかなかたいへんな仕事をしているようである。
T君はプレジデント範師のことを何度も繰り返し話した。 曰く,高体連でどれほど重要な役割を担われているか,また,勝浦研修会での指導がどれほど的確であり,研修生に人気があるか,などなど。 はじめはうんうんと聞いていた私であるが,何か違和感がある。 その時は何なのか分からなかったのであるが,今ハッと気付いた。 それは,普段私はまわりの剣道家に対してプレジデント範師の指導がどれだけ素晴らしいかを力説しているが,T君との話ではまったく聞く側にまわらされていた(笑)。 そのことが違和感として残ったのだと思う。
京都日記 第4日
京都日記 5月3日(月)
御殿荘で午前5時起床。 朝稽古の準備をして,武道センタ−に向かう。
6時10分には到着するが,記帳の列が例年よりも長く,なかなか入ることができない。 やっとのことでアリーナに入ると,すでに大勢の人が着座している。 入口の反対側へ回り稽古の準備を始める。 東京N島先生,宮城E藤先生,東京I井先生にお願いする。 その後演武大会の受付をして,パンフレットと記念の手ぬぐいを受け取る。 受付係の方に「おめでとうございます」と大きな声で言われ,ちょっとびっくりする。
それから宿に戻り,朝食にする。 全館満室のため,例年のような食事会場が確保できないとのことで部屋食となる。 なんだかゆったり旅行気分である。
そうこうしているうちに広島からmini98さんが新幹線で到着。 最近小手が破れたと言うと,mini98さんは皮と針を取り出して,破れた私の小手の内側に縫ってくれているではありませんか。 やはり持つべきは友であります。
その後mini98さんと連れ立って武徳殿へ。 大阪Tさんの試合を,これまで毎年撮影していただいたお礼の気持ちを込めて撮影する。 武徳殿の外では広島からもたくさんの先生方が来られており,挨拶をする。 一旦宿へ戻り休んでいるうちに,憲ちゃん先輩も到着する。 今年は66番目の立ち合いのため,11時前に武徳殿へ入る。
さて立ち合い。 東試合場には次の審判員が貼り出されており,なんとプレジデント範師じゃあ〜りませんか。 試合が進むにつれ審判員が回っていき,66番目には主審に立たれる。 京都まで来てプレジデント範師に審判をしていただけるとは,何たる幸せ。 悔いの無い試合を誓う。
初太刀,表からの擦り上げ面を繰り出すも不十分。 それではとお相手の手元が上がったところに小手を打ち込むが鍔に当たってしまう。 次に面を返して胴を打ち,ちらりとプレジデント範師を見るがぜんぜん(笑)不十分。 終了間際に裏からの擦り上げ面で何とか一本が決まり武徳殿初勝利(う,うれピー)。 しかし,反省すべき点も多い試合であった。
その後mini98さんと昼食に出る。 午後2時からmini98さん,憲ちゃん先輩のビデオ撮影のため武徳殿へ。 それぞれ力の籠った試合をされました。
今夜の酒盛り準備のため,夕食前にビールやつまみの買い出しに出る。 7時からの夕食はしゃぶしゃぶ。 配膳係の方に無理を言って生玉子とネギをもらい,最後は雑炊を作って食べる。 もぉー腹一杯。
さて,いよいよ本日収録のビデオを観ながら反省会。 一本に至らなかった私の返し胴が話題の中心となる。
mini98さんが解説係。
mini98「やっぱり打つ前がないとだめよね。」
事務局長「うん,そうじゃね。」
mini98「ここよ,ここ。もう一回観てみる?」
ビデオが巻き戻され,再び返し胴のところから再生が始まる。
mini98「攻めよ,攻め。攻めることが大事なんよ。」
事務局長「う,うん。攻めが大事よね。」
mini98「ほうじゃろ。そう思うじゃろ。もう一回観てみるよ。」
再び巻き戻して返し胴。
・・・(以下スペースの関係で省略)
再生10回目。
mini98「やっぱり相手を引き出さんとね。返し胴がバチンと決まらんのんよ。」
事務局長「そうよね,引き出さんとね。」
・・・(以下スペースの関係でまたまた省略)
再生20回目。
mini98「都会の先輩だったら,この返し胴は○○が××だと言うてじゃ思うよ。」
・・・(以下ここには書ききれないので省略させていただきます)
さすがはマニアック剣道家を標榜するmini98さんであります。 マイリマシタ。
(ここんとこ,ちょっとだけフィクションありです。でも,まぁ,大体はこの通りでした(笑))
京都日記 第5日
京都日記 5月4日(火)
昨夜はビデオを観ながら「返し胴研修会」があったようなのだが,午前4時にはすっきりと目覚めた。 あったようだがと書いたのは,いつの間にか寝てしまったのである。 憲ちゃん先輩とmini98さんのありがたいお話を聞き逃してしまった! ざんねん。 5時頃からゴソゴソしていると,mini98さんも横で朝のストレッチを始める。
さて,京都大会吉例の朝稽古。 昨日は入口のところで混雑したので,10分ほど早く出発することにした。 しかし記帳の混雑は相変わらずで,昨日より一層渋滞しているようにように思えた。
6時半からの稽古では,兵庫K戸先生,奈良I上先生,大分A部先生,熊本M田先生にお願いする。 八段の先生方はいつもより多く感じた。 片側に2列ずつ,全体では4列で稽古を行ったため,いつもより多くの先生方にお願いすることができたのである。 7時半が終了であるが,mini98さんは岩手の浅見先生と場所を移動しての稽古に行ってしまった。
宿に戻ってから風呂に入り,ゆっくり朝食とする。 本日は大広間での食事。 席に着くと,既にご飯が出されており興ざめ。 やはり注ぎたての温かいご飯が食べたいなあ。
10時にチェックアウトしたあと,憲ちゃん先輩とmini98さんは武徳殿へ。 mini98さんは昨日の立合の写真を購入されたそうです。 その間に京都日記第4日目をフロントから書き込む。
昼前に武徳殿へ。 ちょうどプレジデント範士が出てこられ,昨日の試合についてアドバイスを頂く。
「あの面は思わず出たんじゃろう。 引き分けかと思うて見とったが,うまい具合にはまったのう。 でも中盤は押されとったで。」
私からは,一本にすべきところを決められなかった点が課題です,と申し上げる。
昼食は憲ちゃん先輩,mini98さんと3人でカレーを食べに行く。 御殿荘の近くにあるここのカレー屋さんも,それから近所のラーメン屋さんもおいしかったです。
連休の渋滞を考え,少し早めに出発することにする。 午後3時台の指定席を取っていたmini98さんには申し訳なかったです。 しかし,この日は姫路で大渋滞があり,結果的には早く出て正解でした。
「これからも剣道を続けていきたい。」
今年の京都大会で,そんな思いが深まりました。
演武を振り返って
みなさま,夜のひとときをいかがお過ごしですか。
私は京都でお世話になった方々へのDVD発送を終え,それを再生しながら自らの演武をふりかえっております。
気付いたことのまとめ。
現象@:やや鋭さに欠ける面が見て取れる 現象A:重たそうである
【現象@に係る考察】
演武当夜,御殿荘での研修会では憲ちゃん先輩,mini98さんから口をそろえて 「事務局長の返し胴は,ねっとりしとる」と言われました(ここノンフィクション)。
なんだか誉められているのでは…,と錯覚しておりましたが(ウソ),問題の返し胴だけでなく,擦り上げ面も小手の一本打ちも,全てに鋭さが足りないのであります。
意識の上ではパパンと擦り上げたり,パパンと返したつもりでも,ビデオには スローモーションのおっさん剣道がはっきりと映っているのであります。
どこが問題かと申しますと,自分の意識と実際の体の動きに大きな隔たりがあるということであります。 自分では遅いと気付いていないのに,遅いところが問題なのです。
「稽古の基本打ちはあまり好きではないけれど,試合で決めるところは決められる。」
若い頃は,たぶんこんな感じだったと思うのです。
しっかーし,自分の姿を見て,今夜愕然としております。
【現象Aに係る考察】
そうなんです。 重いんです。
高校時代と比較してみても,50sの増加です。 これは,すべての生活を50sの重りを付けて過ごしているのと同じであります。
そりゃー,あーた,同じ面を打つのでも,50sの重りを付けると付けとらんでは,もんのすごいちがうわな。
ある意味,「大リーグ養成ギブス」あるいは「虎の穴(プロレスラー養成所)」級であります。
これだけでも,これからなんとかせんといけんね。
嗚呼,本年より昇段審査受審可能となります。
京都日記エピローグ
京都大会が終わって1ヶ月が過ぎようとしている。 どうしても書いておかなければならないことがありペンを取った。 近年稽古不足から,このような状態で京都大会に出場する意味があるのかと考え続けてきた。
「最高の舞台で最高のお相手との試合」とは,プレジデント範士が東西対抗に臨まれたときのお言葉だが,少なからず決意を持って武徳殿の演武に立ちたいと願ってきた。 しかし,2年前の人事異動で職場が変わり,比較的長時間の勤務と往復100キロを超える遠距離通勤となってしまったのである。 春霜会のそのまんまI藤会長と特別訓練と称して早朝練習をしていたのが夢のようである。
京都大会では憲ちゃん先輩,mini98さんと一杯やりながら剣道談義をすることが恒例である。 そんな悩み,真情を吐露できるのも幼なじみのありがたさ。 漠然とした不安から,「自分の剣道が,だんだんと弱くなっている。」と発した私の言葉に対して, 「事務局長は強うなっとるよ。剣道を続けとるんじゃろ!」 mini98さんの少し迫力のある声に,私は押し黙った。 むしろ,自分のことは誰もわかってくれないと思った。
京都大会から10日ほど経ったとき,私はいつものように仕事をしていた。
そのとき突然直観したのである。
あれはmini98さんの人を信じる力ではなかったのか。 人を信じ,剣道を通して社会を善導していく姿ではなかったのか。
言葉の真意に思い至った私は,その場で涙を堪えるのに必死であった。
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